ゆきのぶろぐ

漫画を描くのが好きです。
Twitter…@YukinobuAzumax

幸せな王様の話。1

様々な大きな国に囲まれた、

ひとつの小さな国がありました。

小さな国の王様は、

日々国民の言葉に耳を傾けていました。


飢餓が拡がった時期には、

大きな国の王国たちに頭を下げて

食料を分けてもらいに行きました。

隣国の戦に巻き込まれた時期には、

自衛団の先頭に立って闘いました。

季節外れの大嵐で

国民たちが住処を無くした時には、

城の一部を解放して避難させました。


王様は馬車馬の様に

必死で耳を傾け、必死で働きましたが、

毎日どこかで「王様!」と

声を挙げる国民が後を絶ちません。

自分を蔑ろにして働き続けた王様は、

ある年身体を壊し動けなくなってしまいました。


大臣たちは王様の枕元で、

時期国王は誰になるのかと

ヒソヒソ相談しています。


今まで王様がやって来た事を

続けたいと思う後継者はおらず、

そんな政治を自分が倒れるまで続けた責任を

王様にとらせよう、と誰かが言いました。


その頃、王様が倒れたというニュースは

国民には知らされていませんでした。

「王様!王様!」

と、助けを求める国民の声は

相変わらず止みません。


王様が姿を現さなくなってしばらくすると、

国民は苛立ち始めます。

王様は私たちの声に応えてくれなくなった。

そんな苛立ちが怒りに変わり、

怒りが憎しみに変わっていきました。


大臣たちが王様が倒れたのを

国民に知らせた頃には、

国民の怒りは爆発寸前でした。


国のほとんどの人間が、

王様に責任をとらせるべきだと考えます。

王様は公開処刑される事が決まりました。


処刑の日まで、王様は自国の牢獄で

過ごさなければなりません。

王様は何がいけなかったのか、

痛み続ける身体をさすりながら考えました。


小さな窓から星空が見え、

国民の生活音が遠くから響きます。

王様はガックリと肩を落とし、

さめざめと泣きました。


国民の幸せを願って頑張っていたつもりが、

それはただの自分のエゴだったのだなぁ、と。

その罪は私のもので、罰を受けるべきなのだと。


王様は王様である自分の立場も、

国民の幸せを願う自分の想いも、

それを嘆く自分の悲しみすら、

何もかも要らなくなりました。




ある雨の日、

牢獄の窓際に小鳥が雨宿りをしに来ました。


王様がそれに気付き、

自分のパンを少しちぎって

そっと窓際に置きました。


小鳥もそれに気付きますが、

口をつけようとはしません。


王様は言いました。

「これは施しではないよ。

どうか、私の言葉が分かるのなら聞いて欲しい。

聞いてもらうお礼を先に渡させておくれ」


言葉が通じたかのように、

小鳥は窓際のパンをゆっくりと

ついばみ始めました。


「私はこの国の王だった人間だ。

だが、それももうじき終わる。

果たして私の人生とは、

何だったのだろうか。

私のやってきた行いは、

何の意味があったのだろうか」


ポロポロと涙を流す王様に、

小鳥が話し掛けました。


「あなたは国民を愛していたかい?」


王様はギョッと顔を上げ、

少し黙った後に小鳥に答えます。


「とてもとても愛していたよ」


「皆の悲しみを無くしたかった。

恐怖を取り除きたかった。

怒りを鎮めたかった。

不安を拭い去りたかった。


…けれど、

その全てが自分のエゴなのだと気付いた。

今となってはもう全てが手遅れだ。

私はもう、何もかも要らなくなってしまった。

この、国民への愛すらも」


王様はひとつ深く息を吸って、

ゆっくりと吐き出します。

黙ったまま空に浮かぶ雨雲が風に流され、

ぼんやりと姿を変えてゆくのを

静かに眺めていました。


小鳥はパンを平らげると、王様に言いました。

「ちゃんと愛していたなら、大丈夫」


「そうかい?」

「そうさ」


小雨になり、

雲の隙間から晴れ間が見え始めると、

小鳥は

「パンをありがとう」

とお礼を言いました。

王様も

「話を聞いてくれてありがとう」

と答えました。


小鳥が空に飛び立ち、

王様はその姿が見えなくなるまで

見送っていました。

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