ゆきのぶろぐ

漫画を描くのが好きです。
Twitter…@YukinobuAzumax

幸せな王様の話。2

王様が過ごす牢獄に

パンと水を運ぶ兵士に、

王様は今日もお礼を言います。


「いつも暖かいパンときれいな水をありがとう」

「いいえ、王様。私は運んでいるだけですよ」

「それでは、

パンを焼いて水を汲んできてくれた人にも、

お礼を伝えておくれ」


兵士は戸惑いながらも、

伝えます、と約束しました。


兵士は城の調理場に食器を下げに行き、

料理長にパンと水のお礼を伝えます。

料理長は、

「俺は買ってきた小麦粉をパンにして、

城の井戸水を汲んだだけさ」

と答えました。


兵士と料理長は少し考えて、

それでは自分たちで

小麦粉を売ってくれた商人や、

井戸の手入れをしてくれている職人にも

お礼を伝えよう、と話しました。


兵士と料理長は、それぞれにお礼を伝えます。

商人は、

「それでは、私は麦を育てた農民にお礼を言おう」

職人は、

「それなら、ワシは昔

この井戸を掘ってくれた建設屋にお礼を言おう」

それぞれそんな答えを出しました。


兵士はその話を、翌日王様に伝えました。

王様は少し驚いた顔をしながら、

あなたの優しさがとても嬉しいと微笑みました。


兵士も、王様が喜んだのを嬉しく思いました。




時期国王が大臣たちの中から選ばれ、

王様の処刑の日が訪れます。


その日は晴天で、心地良い風が吹いていました。

目隠しをされ縄で縛られた王様が

処刑台に上がると、

国民たちは王様が処刑されるのを

この目で確かめないと気が済まない、と

言わんばかりに処刑台の周りに詰めかけます。


料理長と商人と職人は、

息を飲んでそれを見守るしかありませんでした。


王様の側に立つ兵士も、

グッと唇を噛み締めます。


王様は兵士の震える息遣いに気付き、

申し訳無さそうに呟きました。


「あなたの手を汚させてしまう事になり、

本当にすまない」


兵士は声を震わせながらも、

そっと王様に答えます。


「私の立場は、私が選んだ仕事です。

責任も私のものです」


それでも兵士が涙を堪えている声に、

王様はいたたまれない気持ちで

いっぱいになりました。


王様は、最後の力を振り絞り

空へ向かって叫びました。



「あの日の小鳥よ、聴こえるか?

もしこの声が届くのならば、

どうか私の最後の我が儘を

ひとつだけ聴いて欲しい。


願わくばそれがどこかに届き、

叶わん事を祈る。


私という存在が有る限り

喜びも悲しみも生み出してしまうのを

避けられぬのであれば、最後のこの

「処刑」という最後の喜びと悲しみだけは

私に独り占めさせておくれ。


誰にも奪わせないよう、

硬く硬く封じ込めた

喜びと悲しみの結晶にしておくれ!」



叫び終わったその瞬間、

王様の身体が弾けガラガラと

石になって砕け落ちました。


その中にこの世のものとは思えない、

とても見事な結晶がひとつ輝いていました。


国民や、新国王、大臣たち、料理長たちは、

何が起こったのか分からず、

呆然と静まり返っています。


側にいた兵士は驚きながらも、

震える手でその結晶を拾い上げました。


その見事な輝きは、

その場にいる全員を魅了しました。


静まり返った処刑場に声を轟かせたのは、

新国王でした。

「それは新国王である

私が持つ権利があるものだ!」


その声に、途端にざわめきが広がります。

新国王は国民が選んだのではなく、

大臣たちの中で一番優秀だとされる人間が

選ばれたので、

国民の不満の声は新たに噴き出しました。


兵士は新国王に従うしか無く、結晶を渡します。

新国王に従う兵士も、

また国民の不満の声の的とされました。




その結晶の噂は瞬く間に広がりました。

実際に見た者たちはウットリと

その出来事と結晶の話をし、

その話を聞いた者たちは

一体その結晶はどんなに素晴らしいのか、と

興味をそそられました。


兵士は、

最後に自分の手を汚させまいとした王様が、

目の前で硬い結晶になってしまったのが

未だに幻のように思えて仕方ありません。


処刑の日からガランと空いた牢獄を見つめ、

深くため息をつきました。

×

非ログインユーザーとして返信する

あと 2000文字

※は必須項目です。