ゆきのぶろぐ

漫画を描くのが好きです。
Twitter…@YukinobuAzumax

おじさんと僕の話。

バス停で座り込み、地面に何かを書きながら

悩んでるおじさんと出会った。


おじさん、何してるの?と声を掛けると、

おじさんは人生で最大の過ちだと思っていた事が、

過ちでは無い事を証明したいのだ、と言った。

難しくてよく分からない、と返すと、

またおじさんは困った顔をして悩み始める。


おじさんは、自分の中では

過ちでは無い事だと知っているのに、

それが他人に伝わらない事が悩みなんだ、と話す。


ふぅん、と返し、僕も隣に座り込んだ。


おじさんが地面に書いていたものは、沢山の数字だった。

これはどういう意味なの?と聞くと、

おじさんの頭の中を人に伝える為の文字だよ、と言った。


沢山の数字の羅列は、まるで飛び跳ねるように、

しかし規律正しく美しく並んでいた。

全く意味は分からないけれど、

見ているだけでワクワクして、

オーケストラの楽譜みたいで面白いね、と伝えると

おじさんも楽しそうに笑った。


おじさんはふと地面から顔を上げ、

空を見上げながらため息をついた。

僕も同じに、空を見上げる。


ひとつ、フワフワと風船が飛んでいた。

どうやら近くで配っているようだった。


おじさんがあんまり愛おしそうに

風船を見つめているので、

僕は走って風船を貰いに行った。


風船をおじさんに渡すと、

嬉しそうな悲しそうな顔をして、

それを受け取った。

どうしてそんな顔をするの?と尋ねると、

おじさんの悩みはこの風船のようなもの、と答えた。


風船が膨らむ、という現象が起こるのは、

風船を膨らます力が何かを消失させながら発生し、

大気がその量だけこの中に閉じ込められているのであり、

宇宙の質量は微塵も変わらない。

大気が増えたのでも、減ったのでも無い。

膨らむ、または縮むという現象しか見えない人に、

この風船の中の大気が

外界と遮断されながら存在しているという事を、

知って欲しい。


そう呟く。


僕はまたおじさんに伝える。

難しくてよく分からない、と。


困った顔でおじさんは笑い、

風船を撫でながら

この中のガスには、どうやって触れられるかな?

と聞いてきた。


簡単だよ。

僕はそう言って、

持っている鉛筆で風船をパン、と破った。


おじさんは、嗚呼、と呟き、

目には写らない風船の中にあったであろう

気体が散っていく様子を、

ぼんやりと眺めていた。


そして悲しそうに言った。

破らなければ

風船の外と中の大気は

交わらなかったのだ、と。

交わらせてしまえば

終わりだったのだ、と。


破れて萎んだ風船の残骸を

愛おしそうに摘んでいる。

もうこの風船が膨らむ事は無い。

そう、諦めたように語る。


でも僕はおじさんに言ってやったんだ。

この風船がちゃんと膨らんでたのは、

おじさんも僕も知ってるよ!と。

また欲しかったら、

僕が新しい風船を貰って来て

あげるよ!と。


おじさんはありがとう、と笑い、

ようやく地面から立ち上がり

バス停のベンチに腰掛ける。

僕も立ち上がり、ふと足元を見ると

3.14…と書いてある数字が目に入った。


これなあに?と尋ねると、

何だったかな?とおじさんも忘れていた。

僕は、おじさんに

この数字は僕の誕生日だよ、と教えた。

おじさんも、

そう言えば私の誕生日もその日だよ、と教えてくれた。

しかしその為に記した訳では無いようだ。


僕はヒントを探す為にキョロキョロと辺りを見渡した。

すると、時間通りにバスがこちらへ向かって来ている。

ハッとバス停の時刻表を見ると、

おじさんが乗る3:14発着のバスらしかった。


おじさん、きっとこれだよ!

と教えると、アッと思い出したように笑った。

大正解だ、と向かってくるバスを見つめながら

おじさんは立ち上がり、僕の頭を撫でてくれた。


そして、地面の数字に、正解の意味の

大きな丸を付けてくれた。


おじさんは、じゃあね、とバスに乗り込み手を振った。

僕も手を振り、バスが遠ざかる。

僕は地面に付けてもらった

風船のように大きな丸を、

いつまでもニコニコと眺めていた。

たまに長い夢を。

2017.0507

一昨日の夢を何となく記録。




街の真ん中で、ひとりの青年が

叫んでいた。


自分は22世紀から来たのだと言い、

早く何とかしないと

世界が壊れてしまうと

必死で嘆いている。


しかしせわしなく行き交う人々は、

映画の撮影か、はたまた

妄想癖の狂人だろうと、

誰も耳を貸さなかった。

青年は途方に暮れ、

それでも訴えるのを

やめなかった。


この時代で人々に伝える方法を模索し、

自分の伝えたいものを

娯楽の中に取り入れる事にした。

小説、

漫画、

ゲーム、

アニメ、

映画…

様々なアプローチで

彼は一躍時の人となり、

彼の表現したものを体験する

様々なアトラクションを

備えたテーマパークが

出来上がった。


そのテーマパークの一番の目玉と言われる

アトラクションが、「22世紀行き快速」という、

タイムマシン系ジェットコースターだ。

大規模の室内ジェットコースターで、

立体映像と共に彼の作品のテーマひとつひとつを

点で繋ぎ線として見立て、

あたかも快速電車のように大事な要点を

見せては次の時代へと移動するという

ストーリー仕立てになっており、

長い長いひとつの筋書きを経て

22世紀へ向かう、といったものだ。


記念すべき初始動。

大勢の客が乗り込みしばらくすると、

ゴトン、と機体が揺れ全てが闇に包まれる。


立体映像で表された広い青空とテーマパーク園内。

総支配人である「未来人」が駅員に扮した姿で

乗客達に「いってらっしゃい!先に未来で待っております」

と、にこやかに手を振った。

乗客達もワクワクしながら、未来人に手を振り

ゴトゴトと揺れる機体に身を任せた。


ところで、この未来人が現代に現れたのは

ほんの少し未来のお話。

現在注目されているAI(人工知能)を最大限に活かし、

このテーマパークのアトラクションは客の受けた反応や、

与えたアクションに対して立体映像も

無限に変化するという仕組みになっている。

なので、何度遊んでも同じ体験は出来ないのだ。

そこが人気の一つでもあった。


「乗客の皆様にお知らせ致します。

当快速は、現在最初のステージへ向かっております。

これから起こる出来事が、皆様にとって

幸か凶か存じあぐねますが、どうぞお楽しみください。

よい旅を」


暗闇なのか、雷雲の中なのか、視界の悪い空間の中を

猛スピードで登って行くジェットコースター。

ふとスピードが緩んだと思うと、

アナウンスと共に映像が現れた。


「21世紀、人々は目に見えない心という部分を

与えたり譲ったり、はたまた奪ったり押し付けたりして

補完していました。

しかしある日、それが如実に身体にも現れ始めたのです。」


突如目の前に映像が現れ、両腕の無い男性が映し出される。

何かに無性に引っ張られる男性。

男性が自らの身体の引力に抗えぬままに身を任すと、

失った筈の両腕がむくむくと生えてくる。

満面の笑顔の男性とその家族。


映像が切り替わり、初老の男性が道端で急に

苦しみ出したかと思うと、その両腕が

ズブズブと体内に沈んでいった。

またある女性は、身体の引力に導かれるままに

腹部の痛みに身を任せると、男性器が生えてきた。

自転車で人混みを駆け抜けていく少年は、

ふとすれ違った美女に心を奪われた瞬間に、

美女と顔が入れ替わる。


五体、目、鼻、口、耳、内臓まで

至るところが望む望まざるに関係無く補われ、

与えられ、奪われ、押し付けられた。


身体に欠陥やコンプレックスのある人間ほど、

その「引力」が強く働き、欲しいと切実に

望み求める程、どこかの誰かのものが与えられた。

そしてその引力に抗う力を持たない人間ほど

身体を奪われてゆき、果てには髪一本残さないほどに

様々な人々から奪われてしまう者もいた。

逆も然りで、人々が必要としない病に侵された身体を

全身に押し付けられる者もあった。


人々はこの現象を「裏返り」と呼んだ。


自分の失った部分を誰が奪ったのか、

誰がこんな病を押し付けたのか、

その相手を血眼になって探す人々の嘆きや怒りにより、

世界中で争いが絶えなくなった。


突然、汽笛と共にアナウンスが流れる。

「お疲れ様でした。最初のステージ、

『裏返り紛争末期』に到着しました。

次の発車まで、ごゆっくりお過ごし下さい。」


ドヨドヨとざわめく乗客。

次の展開はどうなるのだろう?と

誰もが座ったまま待っていた。


突然乗客の一人が叫びながら立ち上がる。

乗客が、あっと声を上げた。

その視線の先には、映像に映っていた

両腕の無かった男性がいたのだ。

男性が飛び降りた瞬間、人工知能が

新しい映像と空間を生み出す。


そこは巨大な廃墟ビルの最上階で、

各階に「裏返り補完用」の様々な動物が

区分けされていた。

奪われたり押し付けられた人々が、

それを取り戻したり押し付けたりする為に、

人間より弱々しい生き物を繁殖しているのだ。

先ほど飛び降りた男性に続いて、

映像で顔を奪われた元美女が

必死の形相で飛び降りる。

奪った側として逃げ出した男性を、

押し付けた側として敵意を持たずにいられない、

といった様子だった。


パニックに陥った一部の乗客は

自分の身体に異変が無いか、

とっさに確認しつつ、二人に続いて

我先にと飛び降りて行った。


飛び降りた乗客たちは映像に溶け行き、

奪い奪われ、それを阻止するために

命まで奪い合った。

巨大な廃墟ビルの中で

数年に渡る紛争の果てに、

一人の少年だけがようやく

最下層の出口まで辿り着いた。


ほんの数分しか経過していないにも関わらず、

サブリミナル的効果で、映像や音、空気の流れ、

湿度や温度の体感により、

乗客も同じ時間を過ごしたかのように感じ、

全員がゾッと身震いしていた。


少年は、自分が元々老人だった事以外

殆ど覚えておらず、奪われ押し付けられを

繰り返しながらも五体欠かさず

何とか生き延びて外の世界へ逃げ出す。


汽笛と共に、アナウンスが流れる。

「乗客の皆様にお知らせ致します。

当快速はまもなく次のステージへと出発致します。

お乗り遅れの無いよう、お急ぎ下さい」


映像に溶け行った乗客たちが戻る事は無く、

映像の少年のみが空席に乗り込むと、

ジェットコースターはゆっくり音を立て走り出した。

座ったまま一部始終を傍観していた

残りの乗客たちは、乗り込んだ少年から

目が離せないまま、ゴクリと息を飲んだ。


ジェットコースターが猛スピードで進むにつれ、

少年は殺し合いの果てに余った寿命を

受け取ってしまっており、どんどんと若返ってゆく。


汽笛とアナウンスが再び流れる。

「次のステージ『回復期』に到着しました」


乗客は静まり返り、ピクリとも動かない。

幼くなった少年が、ひとり座席から立ち上がった。

少年がステージへと歩き出すと、

人工知能が新たな空間を創り出す。


そこは、生粋の人間がほぼ居なくなった世界だった。

生き残った「欠けた者」たちは、

繁殖していた動物たちの部位で補って生活していた。

猫の目、犬の鼻、兎の耳、鳥の翼。

身体の半分近くが自分以外のもので

補われている者も居た。


異様にも見える半人半獣の世界は、

緑豊かで柔らかな静けさがあった。

獣の内臓を持つ者、性質を持つ者たちが

過ごしやすい環境に、自ずと変化していったのだ。


少年は、大鷲の脚を持つ女性と出会った。

のどかな環境に、徐々に少年の心も癒されてゆく。


共に暮らして行く中、少年がさらに幼くなってゆくのに

気付いた女性が彼に尋ねる。

戸惑いつつも、ポツリポツリと、少年は

自らに起こった出来事を説明し始めた。


女性は哀しそうな顔をしながら、

最後まで黙って聞いていた。

そして、この時代のルールを教え始めた。


「裏返り」は、今やギブアンドテイクのように、

お互いに、またはそれを大切にしてくれると

信じ合える者同士で補い合う、

生物全ての新たな感覚となっている事。

少年が不必要に担っているものを、

必要な者が居るかもしれない。

それを探してみるといい、と話した。


少年は喜んだが、新たな時代の

感覚を得る事が難しかった。

自分が出来る事は、この両手両足、

目、耳、鼻、生きて居るうちの命で

感じ与えられると思った事を、

行動で相手に施す事だと考えた。


近隣の荒れ果てた土地を耕し、農園を造った。

壊れた橋を直し、淀んだ川の流れを改善した。


湿った沼や空気の濁った洞穴も、

陽当たりや風通しを良くしようと思ったが、

そこに生きている者も居るのだと思い出し、

そのままにした。


やがて少年の若返りはいつしか尽き、

美しい青年となり、逞しい老人を経て、

穏やかにこの世を去った。


彼の周囲の生き物たちは彼の施した行いを尊び、

彼の死を悼み、嘆いた。

そんな中、一部の存在が心から彼の復活を望んだ。

「裏返り」を使い、彼のような美しさ、逞しさ、ひたむきさ、優しさ。それらを新たな命に与え注いだ。


希望の集結によって新たに生み出された「少年」。

その完璧さに、誰もがうっとりと恍惚した。

陶酔する者たちは彼を喜ばせようと、

惜しみなく何もかもを彼に与えた。

与える事が彼らの喜びであった。

自分たちが作り上げた理想の神様だった。


しかし、彼はあの少年では無い。

そして、誰も彼に哀しみを与えはしなかった。


先程と全く同じ姿をした、

別人の「少年」が機内に乗り込むと、

汽笛とアナウンスが発車の合図を告げ、

また次のステージへと走り始めた。


乗客は誰一人声をあげる事なく、

ただただ静かに見守っていた。


「まもなく最後のステージ、22世紀へと到着します。

長旅お疲れ様でした」

アナウンスが流れると、

出発した時の空間に似たテーマパークの風景が広がった。

いや、それ以上に美しく煌びやかであった。

「ようこそ22世紀へ」

支配人扮する駅員が、

笑顔でジェットコースターを迎え入れる。


乗客はほっと安堵のため息をつき、

少年と共に降り立った。


降り立った場所は、賑やかで華やかで、

まるで楽園のようだった。

乗客たちはこの眩い施設に辿り着くまでの

アトラクションだと信じ切っていた。

アクター扮する「22世紀の未来人たち」が

導くまま、乗客たちも少年を喜ばせる遊びに

こぞって参加した。

少年に次々と面白い事を教え、

楽しい事をして見せ、

嬉しくなる話を聞かせた。


少年が喜びや楽しみに反応する度に、

空間の気温や湿度、香りや微風が心地よくなってゆき、

木々に実る果実や提供されるご馳走も格別に

美味しくなっていった。

「喜び」に反応した少年が、

無意識にも沢山の人々から注がれた「幸福」を

返しているのだ。


ふとした事で、少年が不快な感情を示した。

海面下へとダイビングを体験するアトラクションが、

少年にとって不快なものだったようだ。

乗客たちは、これは人工知能の映像空間だから、

息苦しくならないし濡れる訳でもない、と

少年に楽しんで貰おうと半ば強引に乗せる。


しかし少年にとっては例え作り物の体験だとしても、

海面下に沈むという感覚が不快であった。

たまらず途中で飛び降りた少年は、

嫌だと言ったのに!と怒り始める。

戸惑う未来人と乗客たち。


突如、「未来人」の一人が、哀しそうな顔で最後のアナウンスを告げる。


「我々は思いもよらず、彼に哀しみを与えてしまいました。その為、彼から怒りを受け取ってしまいました…。22世紀、ギブアンドテイクの「裏返り」は、身体だけでなく世界にも作用する時代です。彼のように皆からたくさんのものを受け取った人間は、与える力も遥かに大きい為、彼がこちらへ返した怒りの感情により、この楽園は消え去る事となりました」


空がどんよりと陰り、丘の向こうから

不気味に蠢くヘドロのような物体が、

溢れかえり雪崩のようにテーマパークを囲んで行く。

静かに終末を受け入れようと、おし黙る未来人たち。

不安と恐怖でざわつく乗客たちは、

すがるような視線を少年に浴びせた。


少年は絶望に満ちた表情で、

押し寄せる不気味な悪意を見据える。

「僕が『持っていない』からこそ

あれを世界中から招いたと言うのかい?

僕が哀しんでしまったせいで、

ここが無くなるって言うのかい?


…僕は何のために望まれて出来上がったの?

哀しんじゃいけないんだったら、

僕は僕が要らない!」


瞬間、少年の魂は弾け、

肉体はただの空っぽな器と化した。

人々が寄せ集めた希望が、

その存在を否定した。


瞬きすら忘れた乗客たち。

ぱっと世界が闇に変わり、

支配人のアナウンスが世界に

ただ一つの存在かのように響き渡る。


「乗客の皆様、

22世紀はお楽しみ頂けたでしょうか?

当施設はこれより、皆様が元居た時代へと戻ります。

ご存知の通り、人工知能により

繰り返し同じ体験をお楽しみ頂けるか、頂けないかは、

乗客の皆様次第となります旨をご容赦下さい。

ではまた、お会いしましょう」

ふと乗客たちが気づくと、ジェットコースターの降り場へと風景が戻って居た。


これが現実なのか仮想空間なのか、

疑心暗鬼のままぐったりと降り行く乗客の後ろ姿を、

支配人は静かに見守るのだった。



おしまい

不登校とは。

今日、元不登校児の方々のお話を聞いてきました。


自分と違うカタチの不登校。


まあ、不登校って一括りで言われる世の中ですが。

その理由は、当然ですが一人一人違うんです。

それを知らない方の多い事多い事。


今日はその元当事者の方々のお話がとても心に響き、不登校の問題ってものの答えにまた一歩近づけた気がします。


それは自分の答えの追求でもあるので。


ありがたい事です。